映画『凶悪』は、2013年に公開された日本のサスペンス映画で、実際の事件を基にしたノンフィクション作品を原作としています。監督は白石和彌で、主演は山田孝之が務めています。


作品概要
- タイトル:凶悪
- 公開日:2013年9月21日
- 上映時間:128分
- ジャンル:サスペンス・ミステリー
- レーティング:R15+
- 配給:日活
- 原作:『凶悪 ある死刑囚の告発』(新潮45編集部編)
あらすじ
雑誌「明潮24」の記者・藤井修一のもとに、死刑囚・須藤純次から一通の手紙が届く。その内容は、自身が関与した事件の他に、まだ明るみに出ていない3件の殺人事件が存在し、その背後には「先生」と呼ばれる首謀者・木村孝雄がいるというものだった。藤井は真相を追うべく取材を進めるが、次第に事件の闇に引き込まれていく。
主なキャスト
- 藤井修一:山田孝之
- 須藤純次:ピエール瀧
- 木村孝雄(先生):リリー・フランキー
- 藤井洋子(藤井の妻):池脇千鶴
- 藤井和子(藤井の母):吉村実子
- 五十嵐邦之(須藤の舎弟):小林且弥
- 芝川理恵(編集長):村岡希美
- 牛場百合枝(被害者の妻):白川和子
- 牛場悟(被害者):ジジ・ぶぅ
スタッフ
- 監督:白石和彌
- 脚本:高橋泉、白石和彌
- 音楽:安川午朗
- 撮影:今井孝博
- 照明:水野研一
- 録音:浦田和治
- 美術:今村力
- 編集:加藤ひとみ
受賞歴
- 第37回日本アカデミー賞:
- 優秀作品賞
- 優秀監督賞(白石和彌)
- 優秀脚本賞(高橋泉、白石和彌)
- 優秀助演男優賞(ピエール瀧、リリー・フランキー)
- 第35回ヨコハマ映画祭:
- 作品賞
- 助演男優賞(リリー・フランキー)
- 第68回毎日映画コンクール:
- 男優助演賞(ピエール瀧)
- 音楽賞(安川午朗)
見どころ
- 実話を基にしたストーリー:実際に起きた「上申書殺人事件」をモデルにしており、リアルな犯罪の描写が特徴です。
- 俳優陣の熱演:リリー・フランキーとピエール瀧の怪演が高く評価され、特にリリー・フランキーは本作で初の悪役に挑戦しています。
- 監督・白石和彌の出世作:本作は白石監督の長編デビュー作であり、その後のキャリアに大きな影響を与えました。
この映画は、実際の事件を基にした重厚なストーリーと、俳優陣の迫真の演技が融合した作品です。社会の闇や人間の本質に迫る内容となっており、サスペンス映画ファンには特におすすめです。
「上申書殺人事件(じょうしんしょさつじんじけん)」とは、2004年に発覚した実際の連続殺人事件で、映画『凶悪』のモデルとなった事件です。事件の内容は極めて凄惨で、人間関係と金銭が絡んだ陰湿な犯行でした。


上申書殺人事件の概要
- 発覚年:2004年
- 主犯:元建設業者の男(「先生」と呼ばれた人物)
- 告発者:服役中の死刑囚(元暴力団関係者)
- 告発の方法:拘置所から検察へ提出された「上申書(じょうしんしょ)」によって事件が明るみに出た
- 被害者:3名(元従業員やその家族)
上申書とは?
「上申書」とは、ある事柄について自発的に申し出るために提出する文書のことです。
この事件では、拘置所に収監されていた受刑者が「自分が関与した事件には、まだ明るみに出ていない殺人がある」と記した上申書を提出したことで、新たな殺人事件が発覚しました。
事件の構図と内容
- 主犯(元建設業者の男)は、金銭目的や支配欲から、元従業員やその家族を標的に殺害。
- 実行犯(死刑囚)は、命令を受けて殺害を実行。
- 主犯は表向きは普通の市民を装っていたため、事件は長らく発覚せず。
- 死刑囚がすでに別の事件で収監されていた中で、「実は他にも殺している」と自供し、上申書を提出。
判決・結末
- 実行犯は死刑判決が確定。
- 首謀者である「先生」も逮捕され、無期懲役を言い渡された。
- 裁判では、精神的な支配や洗脳のような関係性があったことも指摘された。
関連書籍・メディア
- 新潮45編集部によるノンフィクション書籍『凶悪 ある死刑囚の告発』(2009年)
- 映画『凶悪』(2013年)で事件の実態が広く知られるようになった
非常にショッキングで重たい事件です。事件の経緯や被害者の存在を考えると、フィクションとは違うリアルな恐怖と教訓が残されているといえます。
リリー・フランキーとピエール瀧の演技の魅力
『凶悪』のリリー・フランキーとピエール瀧が老人に対して笑いながら残虐行為を行うシーンは、当初は笑う予定ではなかったけど、撮影している内に楽しくなってきちゃって本気で笑っている #映画の好きな裏話選手権 pic.twitter.com/wh0FrkJwYW
— みりた (@kalassh68) May 20, 2021
映画『凶悪』でのリリー・フランキーとピエール瀧の演技は、単なる悪役以上の「人間の深い闇」を体現しており、日本映画史に残る怪演と称されています。それぞれの演技の魅力を解説します。
リリー・フランキーの演技の魅力(木村孝雄役/「先生」)
“普通の顔をした異常者”の不気味さ
- リリー・フランキー演じる「先生」は、一見すると穏やかで物腰の柔らかい中年男性。しかし、その内面には徹底した自己中心性と冷酷さが潜んでいます。
- 演技では「笑顔」と「無感情」が同居しており、そのギャップが極めて不気味。観る者に「こういう人が現実にいるのかもしれない」というリアルな恐怖を与えます。
押しつけがましくない存在感
- 台詞を多く語らずとも、静かな佇まいだけで周囲を支配するような空気感を持っており、「真の支配者像」が浮かび上がる。
- それまで“優しいおじさん”のイメージが強かったリリーが、本作で初めて本格的な悪役を演じ、そのギャップが衝撃でした。
ピエール瀧の演技の魅力(須藤純次役/死刑囚)
怒りと暴力の爆発力
- 須藤は、衝動的で暴力的ながら、先生の指示に従う哀れな男。ピエール瀧は、その“危うさ”と“恐怖”を圧倒的な存在感で体現。
- 特に暴力シーンでの迫真の演技は、観る側が息をのむほどリアルで恐ろしく、彼の狂気が画面越しに伝わってくる。
憐れみを誘う“人間臭さ”
- ただの殺人鬼ではなく、「使い捨てにされる哀れな人間」としての側面も見せる。取材されることで“話を聞いてくれる誰か”に縋ろうとする姿が、どこか悲しい。
- 死刑囚という極限状態の男が見せる「語ることで救われたい」という欲求が、観客に複雑な感情を呼び起こします。
演技の相乗効果
- リリーの「静」の恐怖と、ピエール瀧の「動」の恐怖。このコントラストが作品全体のテンションを一段と高めています。
- 記者役の山田孝之の“普通の目線”と対比することで、2人の異常性がさらに際立ち、観客に“本当にあったかもしれない悪”を実感させます。
この作品の魅力は、「悪人を演じている俳優を見ている」のではなく、「実在していそうな人物をのぞき見している」という感覚を与える演技にあります。だからこそ、観終わったあともしばらく心に残るのです。